はじまり

会うことが決まってからのソワソワは、若い頃を思い出させてくれた。

 

会う前に彼女(A子とする)について知っていることを復習しておかねば。

すっかり使わなくなっていたはずの脳みそが驚くほど速く回った。

 

下心と脳みその回転の速さは比例するのだろう。

誰かが学会で発表していても驚かないほど、今なら納得できる。

 

A子は元嫁が働いていた居酒屋バイトの後輩で、バイト同士の飲み会にお呼ばれした時に初めて会った。

 

A子は3つ年下で、子供の頃から夢だった看護師を目指して沖縄から上京していた。

初めて会った時はまだ看護学校に通う学生で、やっとお酒が飲めるようになったと言っていた。

 

言葉にこそ訛りがないものの、イントネーションには沖縄の空気を感じられた。

なのに見た目は小泉今日子似なもんだから、そのギャップに好感を覚えていた。

 

この時のイメージとこの間のFacebookでの写真のイメージを組み合わせてシミュレーションを繰り返した。100回は軽くやっただろう。

 

そして当日。駅前の改札で待っていると、A子がやってきた。たとえ15分前からいたとしても、こちらも今着いたかのように振舞うのが男の流儀である。

(実際、40分前に着いていたのはここだけの秘密)

 

およそ25年ぶりに再会したA子は、写真より遥かに綺麗だった。

3歳差というレベルではない。俺とは最早親子レベルの差を感じた。

 

積もる話は腰を下ろして話そうということで、まずは店に向かった。

今回はA子側に行きたいところがるらしく、場所は任せていた。

 

着いたところは見覚えがある。

それもそのはず。元嫁とA子が働いていた居酒屋である。

 

どうやら俺からの連絡に懐かしさを感じたらしく、共通の記憶があるここを選んだらしい。

 

店に入り、空白の25年分の話をお互いたくさんした。

もちろん、元嫁のことも話した。

 

A子はどうやら知らなかったらしく、聞いたことに責任を感じていたが、すぐに励ました。

 

A子は見た目こそ30代で止まったようだったが、雰囲気は当時のままだった。

俺はA子にどうしてそんなに若々しさを保てるのかを聞いてみた。

 

特に努力をしているわけではなく、家系的なものなのかもしれないと言っていた。

どんなスーパー家系だよ!美容学会もお手上げだろ、と突っ込んでしまった。

 

でも、年齢とともに基礎代謝が落ちるから、そこには気を使っているらしい。

やっぱり若くいることは大変だな、と感じた。

 

楽しい時間だったが、結局結婚しているかどうかは聞くことができなかった。

左手に指輪はなかったが、日常で外している人もいるだけに確証が持てなかった。

 

楽しかった気持ちと結婚してるかの確認ができなかった自分への絶望が入り混じった感情のまま帰宅。

 

とりあえずお礼の連絡をするのが礼儀だよなーと思い、連絡を入れて就寝。

 

次の日、A子から返信があった。

「昨日はありがとう。楽しかったね!また会いたいな。」

 

男は単純な生き物なのである。特に恋愛の駆け引きにおいては。